ひき逃げ遺族の会    












ひき逃げは、毎日のように発生しています。しかしよほど大きな事故でない限り、新聞やテレビなどマスコミも、あまり関心を示してくれません。
2008年、大阪で耳目を疑うような事件が発生しました。この事件をきっかけにして、ひき逃げの悪質さが改めて見直され、ひき逃げの根絶を訴える世論が喚起されました。

以下は、そのとき新聞各社が、いっせいに社説の中で取り上げた「ひき逃げ」に関する社論です。





  朝日新聞「社説」 2008年11月19日 

  飲酒運転―魔の誘い断ち切るために


酔いが覚めるにつれて、自らの行為の愚かさと罪深さに頭をかきむしっているのではないだろうか。
警視庁の幹部職員である警視が酒酔い運転の疑いで逮捕された。茨城県内のキャンプ場で催された職場のレクリエーションで飲酒後に乗用車を運転し、他の車に当て逃げしたとされる。

さらに驚くことがある。この警視は、警察署で交通課長を務めるなど主に交通畑を歩いてきた。06年に都庁に派遣された際は、福岡市でおきた飲酒運転による幼児3人死亡事故などを受けて、交通安全対策の責任者として飲酒運転撲滅キャンペーンの先頭に立っていた。


飲酒運転の怖さと悪質さ。それを熟知しているはずなのに、なぜ悪魔の誘いを振り払えなかったのか。逮捕当時、足元もふらつくほどに酔っていたというから、なにをか言わんやだ。

警視庁によると、当初は現地に泊まる予定だったが、急用で帰宅することになったという。だれにでも起こりうる状況だが、酒に酔った状態のまま自分で車を運転するという選択はあり得ない。すでに理性が働かないほど泥酔していたということなのか。


大阪で2件続いたひき逃げ死亡事件も、飲酒運転が呼び水だった。被害者を何キロもひきずって死なせるという、むごたらしい事件が話題になっている最中の、この不祥事である。

大阪の事件では、いずれの容疑者も酒を飲んでいたから怖くなったという趣旨の供述をしているという。事故現場ですぐに通報すれば助かったかもしれない。にもかかわらず、被害者を引きずりながら逃げ続けた。殺人の疑いで逮捕したり、殺人容疑での立件を検討したりしているのは当然だろう。

警察庁の06年のまとめでは、ひき逃げ事件の容疑者が逃走する動機は「飲酒運転」が最も多く、全体の2割を占めている。飲酒運転を減らすことが、ひき逃げを少しでも減らすことにつながるともいえる。

「飲んだら乗るな」のかけ声は、何度繰り返されたことか。大阪の事件では、容疑者が過去にも飲酒運転で1年間の免許取り消しや、免許停止処分を受けている。永久に免許を取り上げていれば尊い命は失われずにすんだのではないか。このところ飲酒運転についての厳罰化は進んだ。

しかし一連の事件をみると、まだ甘いともいえる。飲酒運転での免許停止期間を長期にしたり、悪質な場合は免許を永久に持たせないようにしたりするぐらいのことを検討してもいいのではないか。
飲酒を感知すると車のエンジンがかからなくなる装置などの実用化にも、もっと力が注がれていい。もはや、かけ声だけではどうにもならない。あらゆる工夫が求められる。




  読売新聞「社説」 2008年11月18日

  ひき逃げ多発 殺人につながる悪質な犯罪だ


悲惨なひき逃げ事件が大阪でまた起こった。新聞配達中の16歳の少年が6キロ以上も車に引きずられて死亡した。警察は、飲酒運転していた男を自動車運転過失致死などの疑いで逮捕した。殺人容疑の適用も検討している。悪質な犯行には、厳罰で臨む必要がある。

男は今年6月、酒気帯びで免許停止処分を受けていた。飲酒運転が常習化していた疑いがある。ひき逃げは全国で毎日、40件を超える。早期の救護があれば、助かっただろう命もある。

先月、大阪駅前で会社員が車に3キロも引きずられて死亡した事件も、その一例だ。衝突時の速度は30キロ程度で、すぐに手当てをしていれば、命に別条はなかったとみられている。

警察は、22歳の男を殺人容疑で逮捕した。「逃げるためには、被害者が死んでも構わない」という殺意があったとの判断からだ。当然のことだろう。

この5年間で、警察が交通事故に殺人容疑を適用したのは、ひき逃げで被害者を引きずって死なせたケースなど29人を数え、殺人未遂は35人に上る。

ひき逃げは、1990年代まで年間8000件程度だったが、2000年以降急増し、昨年も死亡ひき逃げ188件を含む1万5500件に達している。
逃走の理由で最多の2割を占めるのは、飲酒運転隠しだ。 酒酔い運転による死傷事故については厳罰化が進み、01年には、最高刑が現在20年の危険運転致死傷罪が設けられた。

さらに昨年9月には、道路交通法が改正され、ひき逃げについても、最高刑が5年から10年に引き上げられた。酒酔い運転も3年が5年になった。

死亡ひき逃げの場合、危険運転致死罪を適用せずとも、最高で従来の2倍の懲役15年だ。危険運転致死傷罪については、事故時に「正常な運転が困難」だったという酒酔い状態の立証の難しさが指摘されている。今後の見直し課題だろう。

ひき逃げの急増に捜査が追いつかず、全体の検挙率は低下しているが、死亡ひき逃げの検挙率は9割だ。逃げ切れないということを思い知るべきだ。

警察は、街頭の防犯ビデオの解析・活用など新たな捜査手法を確立していくことが急務だ。安全運転を心がけるのはもちろんだが、事故はゼロにはできない。ドライバーは、事故後の対応も心してハンドルを握りたい。

                                            


 産経新聞「社説」 2008年11月18日

  飲酒ひき逃げ 殺人にあたる凶悪犯罪だ


大阪府富田林市でまた、悲惨なひき逃げ死亡事件があった。容疑者の男は、飲酒運転が発覚するのを恐れて、新聞配達の少年をはね、約6キロにわたり引きずったまま逃走していた。

大阪ではこの10月にも、同市北区梅田のJR大阪駅近くで会社員の男性が車にはねられ、約3キロ引きずられて死亡した事件があったばかりだ。この事件も、運転していたホストクラブの男が、飲酒、無免許運転が警察に見つかるのを恐れて、ひき逃げ事件を起こしていた。

ひき逃げ死亡事件は悪質極まりない凶悪犯罪に匹敵するもので、殺人罪を適用し、厳罰に処すのが当然であろう。

富田林市の事件の容疑者の大工は、警察の調べに対し、「酒を飲んで運転していた。何かにぶつかったことは分かったが、そのまま必死で逃げた」と供述しているといわれる。

この男は今年6月中旬、大阪府内で酒気帯び運転で検挙され、30日間の免許停止処分を受けていた。このようなことから、飲酒運転の常習者とみられる。

警察庁によると、ひき逃げを起こす動機で最も多いのが、「飲酒運転」だとされる。しかし、飲酒運転は警察に見つからない限り処分されない。このため、飲酒しても事故さえ起こさなければ、という安易な気持ちが飲酒運転が根絶しない背景にあるようだ。

警察当局は、一向になくならない飲酒運転に歯止めをかけるため、平成13年に刑法に危険運転致死傷罪を新設したほか、昨年9月には道交法を一部改正し、飲酒運転と知りながら酒を提供したり、飲酒のドライバーに同乗すれば罰するなど、より厳罰化の動きを強めてきた。

こうした中で先月には、鹿児島地裁で平成15年に奄美大島で起きた飲酒ひき逃げ事故をめぐり、息子を亡くした遺族が、事故の直前まで車に同乗していた同県内の男に損害賠償を求めていた裁判で、請求通り約5300万円を支払うよう命じる判決を言い渡した。

飲酒運転は、厳罰化を求める世論もあって、司法の世界でも厳しくなってきている。この判決は、飲酒運転撲滅の意味からも大きな意義があろう。
しかし、飲酒運転にはまだまだ甘い風潮がある。飲んだら運転しない、飲ませないという大原則をもう一度確認したい。




  東京新聞「社説」 2008年11月19日

  飲酒ひき逃げ 殺人にも等しい犯罪だ


大阪でまた悪質なひき逃げ死亡事件が起きた。被害者は7キロも引きずり回されたという。殺人に等しい卑劣な犯罪が後を絶たないのは、人命や飲酒運転を軽くみる不心得者がまだ存在するからだ。

大阪で飲酒運転でのひき逃げが続発したのに、茨城では17日、警視庁警視が酒酔い運転で逮捕された。取り締まる側の幹部がこんなありさまだから、飲酒運転への甘い風潮が社会からなかなか消えていかないのだ。

大阪府富田林市で新聞配達をしていた少年を軽ワゴン車で引きずり続けて死亡させた男も飲酒運転だった。男は「何かにぶつかったが、逃げた」と供述している。だが、相手が小動物であっても運転者は相当な衝撃を感じるという。「何か」どころではないはずだ。

被害者を引きずって死なせたひき逃げ事件は先月大阪市内で起きたばかりだ。逮捕された男は「無免許のうえ、飲酒運転だった。引きずったまま走れば被害者が死ぬと思ったが、逃げたかった」と供述しているという。

衝突後、車体に人を巻き込みながら、運転を続ける心理状態はどのようなものか。殺人罪適用も考慮しながら捜査するのは当然だ。

2006年8月に福岡市で起きた幼児3人死亡事故を契機に、飲酒運転やひき逃げの厳罰化は進んだ。現に飲酒事故件数、ひき逃げ(無申告)事件ともに、最近の数年間は減少傾向にある。

現場で救護措置をして救急車を呼べば被害者死亡に至らない可能性がある。逃げても車体の塗膜片や損傷といった物証から容疑者にたどりつきやすく、昨年の死亡事件の検挙率は9割を超える。

それでも、悪質な事件がなくならない。死亡ひき逃げを誘引する多くは飲酒運転であり、撲滅への対策を講じていくしかない。

富田林市事件の容疑者は今年6月、酒気帯び運転で免許停止処分を受けていた。その後も飲酒運転をしていた疑いがある。

酒気帯びの免許停止期間が最高90日では抑止効果が乏しいようだ。酒酔いで2年なのだから、1年に引き上げてはどうか。

“逃げ得”を許さないことも抑止力になる。警察は飲酒運転の取り締まりを強化するとともに、ひき逃げの検挙率をさらに高めてもらいたい。

米国やカナダでは飲酒運転常習者には酒気を検知すると車のエンジンがかからなくなる装置を義務付けている州がある。日本もこれに倣って導入を検討すべきだ。




  信濃毎日新聞「社説」 2008年11月19日

  飲酒運転 社会が甘くみてないか


 飲酒運転による悪質極まりない犯罪が後を絶たない。

大阪府ではショッキングなひき逃げ事件が立て続けに起きた。被害者の2人は長い距離をひきずられたことが致命傷となって亡くなっている。容疑者が車を止め、救急車を呼ぶなど早く救護していれば命を救うことができたかもしれない。

被害者の命の重さを顧みることもせず、逃げ延びることしか考えていなかったとしたら、あまりにも身勝手だ。背筋が寒くなる。交通犯罪に対する厳罰化が進んでいるのに、なぜ、このような悲惨な事件が続くのか。飲酒運転をなくすための対策を抜本的に考え直さなくてはならない。

先月21日、大阪市の繁華街で起きた事件では、ホストクラブ従業員の男が容疑者として捕まった。被害者は約3キロも引きずられて死亡した。

男は別の事件で執行猶予中だったにもかかわらず、無免許、飲酒運転で事件を起こした。「人を踏んだ感触があった」などと供述したことから、警察は殺意があったと判断。自動車運転過失傷害などに加え、殺人容疑も適用した。当然といえる。

16日には大阪府富田林市で、ミニバイクで新聞配達をしていた16歳の少年が、飲酒運転の軽ワゴン車にはねられた。少年は約7キロもひきずられていた。  こちらも殺人容疑の適用を視野に入れた捜査が続いている。

警察庁によると、ひき逃げは1998年から増加を続け、4年前に約1万9900件を記録。罰則強化などでその後は減少し、昨年は約1万5400件だった。

検挙率も高く未解決となるケースは多くはない。しかし、捜査の強化と厳罰化だけで対応しきれないのも事実だ。

17日には茨城県で交通捜査に通じた現役の警視庁警視が酒酔い運転の  現行犯で捕まった。当て逃げもしていた。飲酒運転への批判が高まる中、撲滅の取り組みに水を差すような出来事である。

社会の中に飲酒運転を甘くみているふしがまだありはしないか。地域や職場、家庭で考え直す必要がある。特に身近な人の役割が大きい。酒を提供する人、一緒に飲んでいる人、家族などがもっと注意深くなる必要がある。

裁判員制度が来年から始まる。市民感情を考えると、飲酒運転による事件には厳しい判断が下されるだろう。飲酒運転をなくすためには社会全体がもっと厳しい態度で臨まなくてはならない。




  琉球新報 2008年11月18日 社説 

  相次ぐひき逃げ 助かる命を奪った卑劣さ


ひき逃げによる死亡事故が相次いでいる。事故に遭った被害者を助けるどころか、事故発生の連絡もせず現場から逃走するという悪質さだ。あまつさえ被害者を車体に巻き込んだまま何キロも引きずり死に至らしめる。殺人にも等しい卑劣な行為だ。

大阪府富田林市で新聞販売店勤務の16歳の少年が車にはねられ、約5キロ離れた駐車場で遺体で発見されるという痛ましい事件が起きた。被害者は背中が激しく損傷し、引きずられて脱げたとみられる破れた着衣が発見されている。引きずった距離は少なくとも約7キロに達するとみられる。

先月には同じく大阪の梅田で会社員の男性がはねられ、3キロ引きずられて死亡した事件が発生、10日ほど前に男が逮捕されたばかりだ。人命を顧みないひき逃げがなぜ繰り返されるのか。

今回の事件では大工の男が自動車運転過失致死などの容疑で逮捕、送検された。男は「何かにぶつかったことは分かったが、その後は記憶にないほど必死で逃げた」と供述している。

事故が起きたら当然のこととして負傷者の救護を最優先しなければならない。救急車を呼ぶなどいち早く助け出すのが人としての最低限の務めではないか。
逃げずに適切な措置を取れば助かったかもしれない命を、無残にも奪ってしまった。何ともやり切れない。

2つのひき逃げ死亡事件に共通しているのは、飲酒運転の末に被害者を引きずり死亡させていることだ。警察に捕まることを恐れ、現場から逃げるという身勝手さは許せない。

昨年の道交法改正に伴い飲酒運転やひき逃げは罰則が引き上げられた。ひき逃げ死亡事故はこの1年で7%減少した。しかし、年間184件も発生している現状は異常である。

罰則強化による事故の抑止には限界がある。飲酒運転は「しない」「させない」の当たり前のルールを徹底させるしかない。




  神戸新聞 11月7日 社説

  大阪ひき逃げ/人を人と思わない悪質さ


車体に人を巻き込み、そうと知りながら3キロも路上を引きずって逃げる人間とはどういうものか。大阪・梅田で会社員が犠牲になった悪質なひき逃げ事件は、2週間余りで容疑者逮捕にこぎつけた。殺人などの疑いで逮捕されたのは、22歳のホストクラブ従業員の男だ。

警察の調べに対し、「飲酒して無免許だった。詐欺事件で執行猶予中でもあり逃げた」と供述している。「引きずったまま走れば死ぬこと分かっていたが、逃げたかった」の言葉に、寒々としたものを感じる。警察は、殺意があった証拠と判断した。

男は交差点を横断しようとした会社員を乗用車ではね、転倒したところを車体の底部分に巻き込み、約3キロにわたって引きずった。死因は引きずられたことによる外傷性ショックという。せめて、はねた直後に手当てをしていれば、と思う。

調べが進むにつれて、男の身勝手さがはっきりしてきた。車は勤め先の建設会社社長の所有で、事件当日に行方をくらませ、「会社を辞める」と書き置きだけを残していた。その後、同じ大阪でホストになり、逮捕直前は友人と談笑しながらラーメンをすすっていたとされる。「逃げられる」と思っていたのだろうか。

飲酒運転やひき逃げに対し、厳罰化が進んでいる。昨年の道交法改正で、ひき逃げは「3年以下の懲役」から「10年以下」に引き上げられ、飲酒とひき逃げの併合罪の上限は懲役7年6月から15年になった。その効果と言うべきか。数の上ではひき逃げは減少傾向にあるように見える。

2004年の約19900件をピークとして、昨年は約一15400件。昨年9月の改正道交法施行から一年間で、15%減っているからだ。

ただ、悪質な逃走事例は後を絶たない。昨年11月、尼崎市で女性がワゴン車に約4百メートル引きずられて亡くなっている。この10月には、大阪で軽ワゴン車にはねられた男性が180メートル引きずられて重傷を負い、運転していた女子中学生が逮捕された。

特に死亡ひき逃げは、車体の破損、塗膜片などの物証が残り、検挙率は約9割に達する。未解決はほとんどない。

今回、大阪府警は遺体の傷も分析して車種を絞り込み、しらみつぶしに捜査を展開して容疑者にたどり着いた。俗に言う「逃げ得」はあり得ないということだ。また、そうさせてはならない。社会全体でその姿勢を強く持ちたい。




   


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