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自転車事故の過失割合算定サポート

  1. 過失割合の基本算定と判例の過失割合の変更
  2. 平成20年2月29日名古屋地裁判決 自転車同士の事故
  3. 過失とその具体的内容
  4. 過失判断基準の「合理的平均人」
  5. 自転車同士の事故の過失割合の基本的な算定手順
  6. 自転車事故の過失要素と過失修正
  7. 著しい過失と重大な過失
  8. 自転車事故の過失要素とその修正値
  9. 過失の程度の差を考えることの重要性「傘差し運転・片手運転」
  10. 過失要素の細分化検討と必要性
  11. 過失修正の基本的な検討要素
  12. 目に見えない過失要素の証拠確保
  13. 視力・視野狭窄等の眼に関する問題
  14. 自転車の徐行速度
  15. 高速度・スピードの出し過ぎ
  16. ヘッドホン・イヤホン・耳あて使用
  17. 二人乗り
  18. サイズ不一致・体格不適合
  19. 自転車同士の正面衝突事故:はじめに
  20. 自転車事故対歩行者の事故

過失割合の基本算定と判例の過失割合の変更

自転車事故による高額な損害賠償事例の増加により10%過失が修正されるだけでも大きな影響が出ます。
まずは一般的・基本的な過失算定手順を知っておきましょう。

● 過失割合の基本算定

  1. 事故態様から判例タイムズ等を使って基本過失割合を出す。
  2. 当事者の法令違反・不注意等の過失による修正を行う。

※ 注意点

  1. 「この事故態様の場合、判例で過失割合が決まっている。」などの保険会社・弁護士の嘘に注意する。
  2. 判例タイムズの過失相殺基準を機械的に当てはめるだけ、相手の過失要素を単に並べ立てるだけを「する・される」ことのないよう気をつける。

● 判例の過失割合の変更

これは可能です。その理由として下記のようなことが挙げられます。

  1. 裁判においては、裁判官が認定した事実に基づいて判決がなされること。
  2. 裁判官の思考方法として、基本的にまず動かし難い事実を決めてから経験則で仮説を立て、証拠で裏付けるという方法(経験則に反する場合はその主張立証が必要)を取っていること。
    主張立証・突っ込み方・説明等が上手くいかず、挙証責任のある原告が不利益を被っている事例が多々あります。
  3. 裁判所は、当事者の主張していないことを判決の基礎にできないということ。
    過去の判例において過失認定の際に考慮されていないものがあるということです。

上記を踏まえて事故発生状況・事実関係等を整理しておけば、示談段階で保険会社が提示する過失割合の綻びをつくことができます。
過失の定義等は判例等によって確立していますので、個別の事件・事故においては下記のことが重要になります。

  1. 事件・事故発生状況を的確に把握し、客観的・主観的・状況等の証拠、実情、経験則等、明確な根拠を基に事実関係を整理する。
  2. 過失要素を細分化して検討する。
  3. 第三者にも分かり易く、事故発生状況に即した効果的な表現を用いる。

注意点としては、事故態様によって着目すべきポイントが変化することです。

参考:接触事故の予防・回避に役立つ身体操作・立甲

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平成20年2月29日名古屋地裁判決 自転車同士の事故

まずはこの判例を確認する(判例のページに戻る)

相手方の法令違反等の過失要素から義務違反を並べるだけでは裁判長から「立証が薄い」と言われてしまいます。

そのため、過失要素が損害結果にどのような影響を与えたか・どのように作用したかを根拠をもって説明することが大切です。

裁判では「相手の過失のせいで事故に遭って怪我をしたから金払え」と言う方が、下記の列挙事項その他を主張・立証しなければなりません。

  1. 事故があったこと
  2. 相手の過失のせい
  3. 怪我したこと
  4. 損害
  5. その他

被害者は、これらについて実況見分調書・事故発生状況調査報告書等や病院の領収証等によって立証することになります。

さて、本判例において加害者は自らの責任もあることを認めた上で、「被害者の過失による被害の拡大」を主張して過失相殺を求めました。
そのため裁判所は「傘差し運転やサイズ不一致・体格不適合車運転等の過失要素が被害者にもあった」ことを認定した上で、それが事故の発生と損害の拡大に寄与したか否かについて判断をすることにしました。

また、裁判所は本件を「交差点での出会い頭の事故ではない」としていました。
つまり、加害者が交差点右折後に交差点進入以前の被害者と衝突した事故、つまり「対向進行する自転車同士の衝突事故」と認定していたのです。
実はそこに重要なポイントがあったのです。

登録者のみ:正面衝突等対向進行する自転車の過失を証明するポイント

発生状況を的確に把握・整理することは、事故に限らず暴行・傷害・いじめ等の事件においても有効ですから、早期段階からしっかりと必要な情報を集めておきましょう。

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過失とその具体的内容

  1. 過失とは
    「一定の結果発生を予見し、回避することが可能であったにも関わらず、その結果発生を回避すべき措置を取らなかったということ」

    過失は規範的要件ですので、それを基礎づける具体的事実が、民事訴訟においても主張・立証しなければならない要件事実となります。

    「過失」を悪用して被害者・加害者を騙す保険会社・弁護士が現実におりますので注意しておきましょう。
  2. 具体的要件事実と義務の具体的内容
    具体的な要件事実がどういうものなのかというと、
    「加害者に、結果を回避する義務が発生したこと」
    「加害者が結果回避義務を怠ったこと」
    の2つになります。

これらを自転車事故に当てはめて考えると、

  • 結果回避義務の発生は、
    「運転者が道路を走行する際には、衝突事故など起きないように法令等のルールを守って安全に運転する注意義務等が発生している」ということです。
  • 「結果回避義務を怠る」というのは、
    「前方不注視やハンドルブレーキ操作の不適切等の何らかの過失によって事故を起こしてしまった」ということです。

現状では交通事故に遭うと、たとえ自転車運転者が交通ルール・法令等を遵守していても「結果回避義務を怠っていた」とほぼ決めつけられてしまいます。

それでは、過失の判断基準を見ていきましょう。

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過失判断基準「合理的平均人」

加害者の結果回避義務の具体的内容は、特定された加害者本人の具体的な能力を基準として定立されるもの(いわゆる具体的過失)ではありません

過失を判断する際に「人それぞれの能力を検討する」となると大変になってしまうので、判例も多数説も「合理的な平均人」を基準として過失を判断するとしています(いわゆる抽象的過失)。

これを簡単に言うと「普通の人だったらすぐに分かるでしょ!」といったところでしょうか。

例えば、誰もが認める人並みはずれた自転車操作技術を身につけていたある者が片手運転をしていて、あなたと衝突事故を起こした場合を考えてみましょう。
そしてこう言うのです。

ある者:「俺の運転技術をもってすれば、片手運転でも普通の人よりはるかに安全に運転できる。危険な状態とは言えないんだから俺の片手運転は過失にはならない。だから過失相殺なんてされるいわれはない。」

もしこれが認められるのであれば、技術さえあれば何でもありになってしまうかもしれません。だからこそ、一律に「合理的な平均人」を基準として過失を判断するようにしているのです。

つまり、このような場合でも

あなた:「普通の人なら片手運転ではハンドル・ブレーキ操作が適切にできませんよ。それに、あなたが両手で運転していたら衝突を回避できたかもしれないでしょう。だから過失がありますよ。」

と言える訳です。

ただ、場合によっては「特殊な事情」も考慮される可能性がありますので、そこは注意が必要です。

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自転車同士の事故の過失割合の一般的・基本的な算定手順

自転車同士の事故の場合、軽車両同士ということで基本的には四輪車対四輪車の過失割合の算定基準を準用します。

しかし、四輪車対四輪車の過失割合の算定基準を用いるのが明らかに間違いの場合もありますので注意が必要です。
例えば十字路・T字路・丁字路などの交差点における自転車同士の出会い頭の事故の場合がそうです。

さて、交通事故・自転車事故の過失割合の算定・過失相殺率の認定基準としては、主に以下の三つが使われています。

  • 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ)
  • 交通事故損害額算定基準(青い本)
  • 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)

ここで通常の「過失割合の算定方法」を簡単に見ておきましょう。
まずは以下の三つの算定手順を踏みます。

  1. 上記相殺基準の事故態様等(判例の事故類型だけではないので要注意)から「基本過失割合」を決定する
  2. 当事者の過失要素による修正をする(ここまでが基本算定)
    現在、多くの保険会社・弁護士がここまでの手順しか踏まずに過失割合を算定するので要注意です。
    なお、過失修正要素には、速度違反や徐行義務違反などの「個別的修正要素」と、著しい過失や重過失といった「一般的修正要素」がありますが、難しく考えずに「道路交通法等法令に違反する行為」や「事故の危険・原因につながる故意・不注意」などと考えておきましょう。
  3. 事故発生状況による個別の過失修正

※ 事故類型別の過失相殺基準に対する注意点

過失割合について判例を利用する場合は、その判決の「過失判断・事実認定」を明確にしなければなりません。
切り取られた一場面が同様であっても他の条件が異なればほとんど意味がありません。

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自転車事故の過失修正

自転車事故・交通事故において過失割合・過失相殺が問題となっている場合には、相手方の過失要素を的確に指摘して明確な根拠をもって過失の修正を主張することができなければ大きな損失を被ります。
ですから、被害者・加害者を問わず、事件・事故発生状況を的確に把握・整理して過失としっかり向き合うことが大切です。

以下で自転車事故の過失要素とその修正に必要なパーツを見ていきましょう。

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著しい過失と重大な過失

  • 著しい過失
    通常想定されている程度を超えるような過失のことです。
  • 重大な過失
    最高裁判例によれば、
    「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのを相当とする」
    とされています。

    これを簡単にいうと「ほんの少し注意をすれば簡単に結果が分かるのに、それすらしないこと」といったところでしょうか。

    ちなみに一般的な民事上の重大な過失の意味は「一般人に要求される注意義務を著しく欠いた場合のこと」です。

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自転車事故の過失要素とその修正値

自転車事故における過失要素と、その修正値に関して主なものを以下に列挙します(あくまでも目安で、これが絶対という訳ではありません)。
なお、過失の修正が問題になるのは、それが事故発生原因や被害の拡大等について相当因果関係がある場合に限りますので注意が必要です。損害発生に無関係の事由は当然のことながら考慮しません。

過失修正値に幅があるのは、個別の事故において当事者の過失の程度に差が生じるからです。
過失の程度に関しては、過失修正要素の細分化検討によるランク分けを行うことで明確にできます(後述)。
これによって相手方・保険会社の提示した過失割合に対して的確な指摘・主張等が可能になりますので必要に応じてご相談ください。
下記の修正値において最大値になるような場合は、いくつかの過失要素が重複した場合や程度が著しい場合などとお考えください。

● 自転車事故の過失要素とその修正値

以上で全てではありませんが、これらについて考慮するようにしましょう。

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過失の程度の差を考えることの重要性
「傘差し運転・片手運転」

自転車同士の衝突事故で一方が傘差し運転をしていた場合、過失は何%加算されることになるでしょうか?

実は私自身、「過失10%加算しか認めない」と強硬に主張する加害者側保険会社の顧問弁護士と揉めたことがあります。

弁護士:「加害者の傘差しによる片手運転は安全運転注意義務違反の過失にあたり、これをもって加害者の片手運転の過失は評価され尽くしているから、せいぜい著しい過失にとどまるのが相当である。」
と横浜地裁での損害賠償請求事件において答弁書でもこの主張を展開しました。

本当に「片手運転の過失 = 傘差し運転の過失」で加害者の過失が評価され尽しているのでしょうか?

答えは「否」です。
評価され尽くしていません。
保険会社・弁護士の言い分は、傘差し運転を安全運転注意義務に違反する行為という一事として片付けており、過失の程度の差を全く考えていないものです。

傘差し運転の方が、通常の片手運転よりバランスが悪くなることは明白です。
運転者は雨に濡れない様にすることにも気を取られますし、傘で視界も制限される。
加えて雨風が強ければ、それはもう通常の片手運転とは比べものにならないくらい正常なハンドル操作が困難でしょう。
これらを運転者本人も十分に理解しているはずです。
そういった事実を無視して単純に「片手運転の過失 = 傘差し運転の過失」としたのでは、いい加減過ぎます。

しかし、保険会社は基本的に傘差し運転の過失を下記のように考えています。

● 保険会社の傘差し運転の過失の取扱い

保険会社では、傘差し運転を単純な過失と取り扱うことがほとんどです。
被害者が頑張って主張・立証しても、過失の程度の差を明確にできなければ、著しい過失と認められればいい方です。

この点、クルマの場合のハンドルやブレーキ操作の不適切が著しい過失の具体的例として挙げられていることを根拠としてきます。
つまり、「自転車の傘差し片手運転の過失は、ハンドルやブレーキ操作の不適切であり著しい過失にとどまる」と言ってくる訳です。

しかし、これも大きな間違いです。

本件において、片手運転と傘差し運転の過失の明確な差を報告書として提出し、これが決定打となって重大な過失との認定がなされました。
これを知っているだけで、「片手運転の過失 = 傘差し運転の過失」でないことを明確にできます。

登録者のみ:片手運転と傘差し運転の過失の明確な差の説明方法

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過失要素の細分化検討と必要性

自転車事故で揉めてしまって裁判所のご厄介になった場合には、被害者が加害者の不法行為責任について主張・立証しなければなりません。
その際には相手方の過失を完璧に立証する必要はありません。
裁判長に「なるほど、確かにそうかもしれないな。」といった心証を持ってもらえれば、相手方の過失を認めてもらえる可能性があります。

● 自由心証主義

民事訴訟法第247条:
裁判所は、判決をするに当たり、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により、事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断する。

稀に、被害者や加害者が相手方保険会社・弁護士から提示された過失割合に対して異議申立をした際に、
相手方保険会社・弁護士:「あなたがそれを事実だと主張するのなら、『合理的な疑いを差し挟む余地のない程度の立証』か『合理的な疑いを超える証明』が必要ですよ。」
などと言ってくる者がいますが、民事訴訟の場合の必要な証明の程度は、刑事訴訟よりも緩やかな基準になっています。

● 昭和50年10月24日最高裁判決「必要な証明の程度」

訴訟上の因果関係の立証は、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を持ちうるものであることを必要とし、かつ、それで足りるものである。

最悪の場合を想定して早い段階から訴訟にも対応できるようにしておくべきです。
相手があまりに不誠実で平気で嘘を吐く輩の場合には、それが誰であろうと徹底抗戦する覚悟を持たなければなりません。
自身のみならず、大切な家族のためにもです。

さて、著しい過失や重過失といった一般的過失修正要素は通常予定されているものですから、それを考慮して過失相殺を行うのは当然のことです。
過失の加算要素を相手方や第三者に説明等する際は、しっかりとした根拠を示す方がより効果的です。
そのため、自転車事故の過失要素を事故発生状況・現場等から細分化して個別に検討・調整を繰り返し、さらにランク分けを行って適正な過失修正表等を作成することをおススメします。
相手方の過失が明確となる他、あなた自身の過失に気付くこともできるでしょう。
自身に過失がある場合には「認めるべきところは認め、誠意をもって謝る」ことが大切です。

さて、仮に裁判になった場合、「事故状況等から、当然認めてもらえるだろう。」と考えてしまうかもしれませんがこれが大きな落とし穴なのです。
裁判所が「判決の基礎」とすることができるのは当事者が主張した事実のみであり、当事者が主張しない事実は、たとえ証拠調べの結果、その事実の存否につき裁判所が確信を抱いたとしてもそれを判断基準とすることはできないのです。

それ故、過失修正要素を検討した上で資料を整理して適切な主張・立証をしていくことが大切なのです。
自転車事故において、裁判所がこれまでに自転車や歩行者の過失として「どういう行為を問題視しているのか」、「どのような注意義務違反が重視されているのか」等を予め調べ、それに沿った主張・立証を行うことが重要になります。

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過失修正の基本的な検討要素

過失修正をするための基本的な検討要素は、大体12項目ほどに絞られます。

  1. 規則要素
  2. 地形要素
  3. 場所要素
  4. 路面要素
  5. 時間要素
  6. 感覚・身体要素
  7. 行為要素
  8. 意識要素
  9. 年齢要素
  10. 自転車要素
  11. 特殊要素
  12. 天候要素

※ 上記過失要素の検討項目の中身とその具体例については過失修正 : 細分化検討に明記しています。

事故当事者の「感覚・身体要素」については、過失割合の変更に大変重要な要素であるのに、よく見落とされているものです。
場合によっては、行政機関等に対して情報公開請求を行うなどして情報収集をする必要がありますので、専門家に確認・相談するなどしましょう。

上記項目を検討し、項目別に修正根拠等を明確にしながら過失ポイントを計上していくと、同時に二・三要素に引っ掛かる行為の過失ポイントが高くなって過失の程度の差がポイント数というカタチで明確となる訳です。
こうすることで、相手方に対する説明が容易になります。
問題は、どういったものが過失ポイントとなるかについてですが、判例の過失認定資料や、裁判上・裁判外の和解などで得た経験による過失認定資料等を活用することが重要です。

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目に見えない過失要素の証拠確保

過失には、目に見えるものと見えないものがあります。
見えていても気付き難いものであったりすると、その過失を指摘・主張・立証するのは困難を極めます。
見えないものになると尚更ですから、事故が起きた時にすべき確認事項を知識としてもっておきましょう。

さて、相手の不注意といったものも目に見えませんが、事故発生状況からその度合いなど大体のことが分かるものです。
しかし、すぐに証拠を押さえないと闇の中に消えていく過失要素もあります。
例えば、「ブレーキの故障」は、事故の要因として大きな問題になります。
ブレーキが全く効かないのであれば「そのせいで衝突した」と言えるだけでなく「そんな危ない自転車に乗っている」こと自体も問題となるでしょう。

それでは、「ブレーキの効きが甘い」といった場合には、どうでしょうか?
これは、事故直後にその場で確認しなければ見ただけでは分からないことです。
程度によりますが、この場合も相手方が「それを知りながら自転車に乗る」ということが問題です。
そのような自転車に乗っていれば、衝突回避に支障が出ることは容易に理解できることだからです。
つまり、「危険であることを承知した上で自転車に乗り、結果として事故を起こした」ということになる訳です。

これが「単なる過失」と言えるのか、という問題です。
これを的確に指摘・主張することが必要になります。
「ブレーキの効きが甘い」ということはあくまでも一例に過ぎません。
他にも「見えない過失要素」や「見逃しやすい過失要素」は存在しています。

自転車事故・交通事故の過失を算定する際は、このような「見えない過失要素」に気付くことができるか否かが大変重要です。
以下の「視力・視野狭窄等の眼に関する問題」も確認しておきましょう。

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視力・視野狭窄などの眼に関する問題

クルマ・バイクの運転免許取得には十分な視力が必須です。
自転車に免許がないとはいえ、適正な視力が必要であることは言うまでもありません。

それではまず、クルマ等の免許取得要件である視力を見てみましょう。
なお、特に「裸眼」と書いていなければ、眼鏡やコンタクトによる矯正視力も含みます。
以下はいずれも「1または2」であることが必要です。

● 普通免許

  1. 片目でそれぞれ0.3以上、両目で0.7以上見えること
  2. 片目が0.3以下の場合は、他眼の視力が0.7以上で、視野が左右150°以上あること

● 原付、小型特殊

  1. 矯正、または裸眼視力が両眼で0.5以上あること
  2. 片目が見えない場合、他眼の視野が左右150°以上あること

道路交通には上記のような最低限必要な視力が求められています。
「自転車に乗るのに視力なんて関係ない」などとは到底言えることではありません。
自転車は軽車両ですから最低でも原付、小型特殊と同様の視力が必要と考えられます。
これを満たさなければ、自転車に乗ること自体が危険行為となりえます。

視力が低いことは本人自身が一番よく分かっていることです。
その場合に、低視力が一因であるような態様の衝突事故が発生した場合には当然責任が生じると考えられますから、

相手方:「あなたは、自転車運転に支障が出る(前方がよく見えていないなど)低視力でありながら、自転車に乗って公道を走行するという危険な行為をあえて行っていましたね。本件においてはそれが大きな要因の一つですから、あなた自らが招いた結果と言えるんじゃありませんか。」

と、突っ込まれても仕方ありません。
また、低視力が一因となっている場合で、その加害者が未成年者であれば、親の指導・監督義務も問うことができるでしょう。

なお、事故の当事者は、相手方にある程度の視力があっても、それだけで眼の問題を放置してはいけません。
他に気を付けるべきことがあります。
高齢者に多いのですが、眼の病気によって視野狭窄などが起こっている場合があるからです。

緑内障などは、40歳以上の約30人に1人、つまり約220万人の緑内障患者がいるとされています。
緑内障は、眼圧の上昇が原因であると考えられていましたが、実際には、正常眼圧であっても緑内障になるケースが多く、今では緑内障全体の70%以上を正常眼圧緑内障が占めるほどになっています。
正常眼圧緑内障などの症状は、ある程度進行するまで気付かないため、失明の大きな原因となっているほどです。

事故の当事者が目の異常を感じていながら放置していた場合には、明らかに過失があると言わざるを得ません。
視力・視野狭窄などは目に見えません。
だからこそ、事故発生後には必ず確認作業が必要になるのです。

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自転車の徐行速度

裁判所は、クルマの徐行速度について「ブレーキ装置を操作してから1m以内で停止する速度」として大体時速10km以下を目安としています。
しかし、これをそのまま自転車には当てはめるのは間違いです。
自転車の徐行速度についてはいろいろ意見が分かれています。
いくつか例を挙げると、

  • 歩行者の速度と同様に時速4km程度
  • 歩行者の速度から考えて時速7km程度

だとかがあります。

この点、国土交通省のサイト上の参考資料の中に「時速6~8km程度」という記述がありますからこれがもっとも信用できる情報でしょう。
そうであるならば、次の点が問題になるかと思います。
時速6~8km程度の速度で走る自転車がブレーキ装置を操作したら、一体何m以内で停止できるのか?

もちろん、舗装された平坦な道路や坂道、砂利道などの道路状況によって変わってきますが、そこはやはり一般的に考えるべきでしょう。
という訳で、市販されている自転車速度計を利用し、道場の教え子達の協力を得て実験してみました。
もちろん、自転車運転者が「前後輪両方のブレーキをしっかりと掛ける」のが前提条件です。 その結果としては、概ね「ブレーキ装置を操作してからの停止するまでの距離0.3~0.5m以内」といったところでした。
もっとも、これは簡単な実験結果ですので参考までのものです。

実際は、過失要素の細分化検討による場所要素を加えて考えるなど、自転車事故解析等が必要となる場合がありますので注意が必要です。

自転車の徐行義務違反は、徐行すべき場所でそれをしていなかった場合に問題となります。
どういったものが違反とされ、過失を問われるのか?
これは、自転車の徐行義務が課されている場所を考えれば簡単に分かることでしょう。
自転車の徐行速度は「場所」にもよりますが、クルマの1m以内よりも厳しいものであることを知っておきましょう。

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高速度・スピードの出し過ぎ

自転車事故において相手方の速度を立証することは容易ではありません。
自転車事故の解析を徹底的にやる場合に特に重要となるポイントは7つありますが、これに関しては数学・物理等の知識も必要になります。
「クルマと自転車の事故」・「クルマと歩行者の事故」で衝突地点を推定する際に用いることが多いので、ここでは割愛します。

自転車事故の高速度・スピードの出し過ぎが問題の場合、とりあえず簡単にできる下記を確認しておきましょう。

  1. 事故直前にコンビニなどの防犯カメラに映っていないか
  2. ブレーキ痕が残っていないか
  3. 目撃者に証言してもらえないか

そういった証拠がある場合でなければ、相手方の「スピードの出し過ぎ・高速度走行」を主張・指摘して立証するのは困難を極めます。
しかし不可能ではありません。
むしろ、相手がスピードの出し過ぎ・高速度走行を認めないことが被害者にとってありがたい場合もあります。

自転車同士・自転車対歩行者の事故の相手方がスピードの出し過ぎ・高速度走行を認めないどころか平気で嘘を突いた場合は、その嘘を録音した上で、しっかりと嘘を暴くようにしましょう。

このような嘘が最も多いのはロードバイク利用者です。
もちろん一部の悪質な輩の所業ですから、他の利用者にとっては迷惑な話ですが、あくまでも「高速度走行をごまかした」事例で最も多いということになります。

このような場合には、まず上述したように周辺の防犯カメラや目撃者等を探しますが、場所・時間帯によってそのような客観的証拠がない場合が多くあります。
そのような時に重宝するのが、ある確認をすることです。

その者の嘘を暴く十分な証拠になり得ますので、必要に応じて下記販売情報、

調査・確認マニュアル:走行速度確認の一手法(メール配信:税込1,000円)」

をご活用ください(事故当事者本人のみ)。

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ヘッドホン・イヤホン・耳あて使用

※ この部分の記載が当初のままのテキストでした。更新作業等確認が行き届かず申し訳ありませんでした。
なお、自転車事故対応マニュアルに関しましては、改正等に対応して更新しておりましたのでそのままご利用いただけます。

さて、警音器は、以下のように使用場所・機会が限られています。

  1. 左右の見通しのきかない交差点
  2. 見通しのきかない道路の曲がり角、又は見通しのきかない上り坂の頂上で道路標識等により指定された場所
  3. 山地部の道路その他曲折が多い道路について道路標識等で指定された区間で1・2に該当する場合
  4. 危険を防止のためにやむを得ないとき

見通しの悪い道路・状況等に応じて、周りから警音器で注意を促されることがあります。

このような場所を通行する場合、危険を回避するために相応の注意をしておく(警音器の音等聴ける状態で運転する等)必要があると言えます。

事故状況によって、大きな過失とされる場面もありえますので注意が必要です。

下記のような主張をされた場合を考えておきましょう。

ヘッドホン等使用者:「ヘッドホンをしていたけど音量を小さくして周りの音が聞こえるように気を付けてたし、実際に聞こえていたからヘッドホンの使用は過失にはならないよ。」

ヘッドホン・イヤホン等によって耳を塞げば、それをしない場合に比べて周囲の音がやはり聞こえ辛くなりますし、音楽等聴いていればなおさらです。

見通しのきかない交差点などで事故が発生し、それ以外に問題となるような法令違反等がなくて揉めてしまった場合には、事故発生時にヘッドホン・イヤホン等を使用していた事実はマイナスの判断材料とされる場合があります。

実例としては、住宅街にある狭い道路の曲がり角での出会い頭の事故があります。
双方とも徐行速度でその他法令違反等ありませんでしたので、過失割合「50:50」となりそうなところでしたが、一方の一言(登録者のみ)で結局「40:60」で和解が成立しました。

● 交差点における自転車ミラーの有用性

ミラーはきちんと使えば大変有用です。

道交法の厳罰化以前、住宅の塀で左側の見通しがきかない交差点での自転車同士の出会い頭の事故で、歩道の右端を通行していた相手方左方車と衝突して過失を押し付けられそうなところをミラーのおかげで難を逃れた方がいらっしゃいます。

依頼者は病気で聴力が低下した方で、それを知った保険会社の担当者からそこを責められたのです。

依頼者:「自転車ミラーで安全確認を行っていた。」

と反論するも、

保険会社:「交差点での出会い頭の事故でどうやって自転車ミラーで安全確認ができるのか。」

と、お話にならないとのことでした。

自転車ミラーの一般的な使い方と、クルマと自転車の違いを図解した結果、過失割合「相手:依頼者=90:10」で和解が成立しました。

登録者のみ:サンプル文例:自転車同士の出会い頭の事故:聴覚異常・ミラーでの安全確認

当初、依頼者は大層ご立腹でしたが、「相手方をミラーの使い方も分からないハズレ」と思うことで余裕が生まれたようでした。

何事にも当たり外れがありますから、自転車を運転する際には事故に遭わないよう十分な注意をすることが大切です。

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二人乗り

二人乗りが原因で事故が起きた場合の加害者の過失としては、

  1. 積載重量を超えている場合も含めて走行が不安定になる。
  2. ハンドル操作が困難な場合もある。

などがありますが、これらを挙げるだけではその危険性を理解してもらえません。
この場合、その危険性を明確に指摘するのがベストです。

二人乗りによる危険性証明の手引き

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サイズ不一致・体格不適合

自転車事故の過失の中に、サドルが高くて地に足が届かない場合などサイズ不一致・体格不適合の自転車運転による(裁判所が過失判断理由としてよく挙げる)不安定走行があります。
サドルが高い自転車で代表的なものといえばロードレーサー等でしょう。
それに乗っていることにケチをつけているのではありません。
「サドルが高い = 過失がある」と言っているのではなく、その状態で事故に遭うと「原因と結果に因果関係があればマイナス要因とされてしまう場合がある」と言っているのです。
なぜなら、サドルが高く地に足が届かない自転車に乗っていて事故にあった者の不安定さを問題視して過失を認定している判例があるからです。

もちろん、損害発生・拡大という結果とサイズ不一致・体格不適合との間の因果関係の有無が問題となります。
因果関係がなければ特に問題にはなりませんが、ある場合にはその状態で事故を起こしてしまうとなかなか言い逃れができませんので注意が必要です。

ところで、サイズ不一致・体格不適合の自転車運転を過失と判断する理由として、裁判所が多く挙げているのが、
裁判所:「走行の不安定性、つまり、安定走行だったのであれば事故の発生やその結果・損害の拡大などを回避できた可能性が高いといえる。」
というものです。

そんなの言いがかりだ!」という方もいるでしょう。
実際、下記のような裁判所の過失判断があります。

● 平成19年3月5日東京地裁判決

赤信号により双方が一度停止し、青信号になってから被害者男性(タクシー運転手)が横断して加害者の横をすれ違おうとしたところ、加害者男性がよろけたためにX地点で接触し、被害者が信号機の鉄柱に顔をぶつけたという「交差点付近の歩道上での自転車同士のすれ違い様の接触事故」の事例で、発生状況を簡単な図にすると下記のようになります。
なお、双方とも他に特に問題となる過失はありませんでした。

交差点付近の歩道上での自転車同士のすれ違い様の衝突事故

この事故は、停車していた加害者が急にバランスを崩してよろけなかったならば起きませんでした。
この事故発生状況において裁判所が過失割合をどう判断したかというと、被害者:加害者=40:60です。
「・・・??? これは一体どういうことなのか?」
と思われたでしょう。
裁判所の過失判断の理由は下記の流れでした。

  1. 加害者がよろけなかったら、被害者は怪我をしなかった
  2. 加害者に責任あり
  3. でも、本来自転車は車道通行だ
  4. 接触事故の起きた歩道の状況(加害者が停車中・信号の鉄柱)から考えると、被害者が通る幅が狭かった
  5. 被害者は加害者とギリギリですれ違うことは容易に認識できた
  6. 被害者が両足が地につかない高さのサドルの自転車に乗っていたという不安定性も考えてみた
  7. 損害は公平に分担しないとね
  8. そうだ、4割減額しよう

「・・・ええ~っ!? 被害者のサドルの高さはあまり関係ないんじゃないですか?」
と思われた方がいるでしょう。

そもそも被害者は加害者にぶつからないよう走行していました。
加害者がよろけなかったならば被害者は転倒することはなかったはずです。
この発生状況で「サドルの高さのせいで被害が拡大した」なんて被害者にひどい仕打ちをしてるようですが、上記が裁判所の判断だったのです。

このように、サドルが高くて地に足が届かない場合などの自転車運転者の身体とのサイズ不一致・体格不適合による自転車運転の不安定性は、被害者にとっても大きな問題となりますので注意が必要です。

さて、自転車乗りの方から下記のご意見が寄せられます。

「サドルが高くて地に足が届かない場合でも、ある一定の速度で走行していれば不安定走行にはならない。むしろ速度を抑えることが危ないんだ。」

確かにその通りだと思います。
しかしそれは、ある条件・状況下では言ってはいけない場合があり、逆に過失が大きくなる場合があるので注意が必要です。

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自転車同士の正面衝突事故:はじめに

自転車同士の正面衝突事故は対面したカタチであるため、
双方にそれ相応の過失(前方不注視・適切な回避措置懈怠等)がある
決めつけられる傾向にあります。

2004年、実際に証拠調べもしないうちから、

横浜地裁女性裁判長:「これはもう正面衝突ですから過失は半々でいかがですか?」

と和解を促されたことがあります。
しかし、即時に事故発生状況を説明し、不自然な点を指摘して口頭弁論期日を続行して加害者:被害者=100:0で和解した経験があります。

自転車同士の正面衝突事故の場合、弁護士はすぐに「損害の公平な分担」を持ち出して「加害者:被害者=100:0」の過失割合を回避しようとしますが、過失相殺によって「100:0」になる場合も当然あります。
自転車同士の正面衝突事故においては「センターラインの有無」による基本過失割合の割り当てができない場面が多いので、しっかりと事故発生状況の把握・整理を行うようにしましょう。

法令等遵守して走行していたあなたに、相手が一方的にぶつかってきたというのに事故態様が正面衝突というだけで過失を押し付けられている方は、独りで悩まずにご相談ください。

登録者のみ:実録損害賠償請求事件:自転車同士の正面衝突事故

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