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自転車事故の過失割合算定の基本

適正な過失割合を算定するために何よりも重要なのは、事故発生状況の的確な把握・分析・整理を行うことです。
これができていなければ主張・立証に必要な客観的・主観的・状況等の証拠等を見極めることができず、その確保・保持も疎かになってしまいます。
「事故発生状況の的確な把握・分析・整理」ができていてこそ、クルマとは違う自転車の性質からくる故意・過失要素等の細分化検討が機能して、相手方や第三者(専門家・和解斡旋機関や裁判所等)を納得させることのできる「的確な指摘・主張・説明・異議・反論等」が可能となることを念頭に置いておきましょう。

また、そうして得た情報を有効活用するために戦略を練り上げることも大切です。
そのためにも、自転車事故の過失割合を考える際の基本的な情報を確認しておきましょう。

参考:過失割合算定書サンプル

ページ内容

  1. 過失算定の武器は「情報」と「戦略」
  2. 平成20年2月29日名古屋地裁判決 自転車同士の事故
  3. 過失とその具体的内容
  4. 過失判断基準の「合理的平均人」
  5. 判例の過失割合判断の変更は可能
  6. 自転車同士の事故の過失割合の基本的な算定手順

過失割合算定の武器は「情報」と「戦略」

  • 情報は、事故発生状況(事故発生前~発生時~発生後)に関する事実関係等、法律の規制・損害賠償請求・過失等の知識、相手方に関することや証拠・証言の収集・確保と保持、その他を含みます。
  • 戦略は、事故発生状況の的確な把握・分析・整理をした上でどのように情報を集め、情報をどのように使い、どのタイミングで出すかなどです。

自転車事故の高額な損害賠償事例が増えているからこそ、10%の過失修正でも当事者に大きな影響がでます。

交通事故における過失割合の大幅な変更を可能とするためにも、下記を念頭に置いてしっかりと戦略を練り上げてください。

  1. 事故発生状況の的確な把握・分析・整理を行った上で、
  2. 客観的・主観的・状況等の証拠、実情、経験則等を根拠として、
  3. 第三者にも分かり易く、事故発生状況に即した的確な指摘・主張・説明・異議等の「方法」を練り上げ、
  4. より効果的な表現を用いる

これらの有効な活用方法を知っていれば、仮に裁判になっても怖くはありません。

逆に、本人または訴訟に至るまでの行政書士等の専門家や訴訟代理人となった弁護士が、そういう的確な指摘・主張・立証をできなければ、相手に過失要素があっても過失として認定されないこととなります(下記事例参照)。

最も重要なのは、上記1の事故発生状況の的確な把握・分析・整理です。

これができていないのに相手の過失要素をただ単に並べ立てているだけでは、全てが無駄になりかねませんので注意が必要です。

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平成20年2月29日名古屋地裁判決 自転車同士の事故

まずはこの判例を確認する(判例のページに戻る)

相手方の法令違反等の過失要素を挙げて、

加害者側:「被害者には~の義務があったのにこれを遵守していなかった。危険行為だ。だから被害者には過失がある。○%の過失の修正がなされて然るべきだ。」

などと主張しても、立証が薄いのは当たり前のことです。

的確な異議・主張・立証等しさえすれば十分被害者側に対抗しうる事故の発生状況であったのに、後の祭りとなった事例といえます。
事故発生状況はある程度把握できているのですから、ここでのポイントは「被害者自身の過失要素が損害結果にどのような影響を与えたか・どのように作用したか」をしっかりと根拠をもって説明することだったのです。
それができていなかったのです。

なぜこんなことが言えるのか?

これはもちろん同様の事故態様における経験(過失割合変更事例:8および9)があるからです。

裁判では、「事故による相手の過失のせいで怪我をしたから金払え」と言った方が、「事故があったこと」・「相手の過失のせい」・「怪我したこと」・「その金額」を主張・立証しなければなりません。
被害者は、これらについて実況見分調書・事故発生状況調査報告書等や、病院の領収証等によって、立証することになります。

本判例において、加害者は事故による被害者怪我を自らの責任もあることを認めた上で、
加害者側:「被害者の過失で被害が拡大してるんです。」
として過失相殺を主張した訳です。
そうなると、今度は加害者が被害者の過失(相手の過失のせい)を立証しなければなりません。

実況見分調書等によって被害者の「過失要素自体」は明白でした。
だから、裁判所も被害者に過失要素があったことを認定しています。
その上で、被害者の過失要素が事故発生と損害の拡大に寄与したか否かが、争点となりました。
ですから、加害者はこの部分を的確に指摘・主張・立証するだけでよかったのです。

上記の平成20年2月29日名古屋地裁判例において、裁判所は、本件を「交差点での出会い頭の事故ではない」としていました。
加害者が交差点右折後、交差点進入以前の被害者と衝突した事故、つまり「対向進行する自転車同士の衝突事故」としていたのです。
そうであれば、必要な突っ込みどころ【・・・】が浮かび上がってきます。
さらにプラスして、被害者が体格不適合の自転車に乗っていたことが、転倒と傷害に「どう影響を及ぼしたのか」について、ある点に絞ってそれを的確に【・・・】と指摘するだけでよかったのです。

※ 【・・・】内は会員のみ閲覧が可能な情報です。

事故・事件の発生状況を的確に把握・分析・整理し、相手方の故意・過失要素の細分化検討後、的確な異議・指摘・主張・立証の方法と戦略を練り上げることは、交通事故に限らず、暴行・傷害事件やいじめ問題等においても有効です。

また、交通事故・自転車事故においては、項目に沿って過失ポイントをつけるなどして目に見えるカタチで当事者の過失を表すと、算定と相手方への説明が容易になります。
交通事故の当事者は、示談等の際に相手方(被害者・加害者)に対して明確な根拠をもって主張・説明・指摘等を行えるように、事故直後から事故発生状況を的確に把握・分析・整理し、仮に裁判に至った場合でもそれらを証拠として利用できるようにしておきましょう。

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過失とその具体的内容

被害者・加害者を問わず過失相殺を主張することは悪いことではありません。
自転車事故・交通事故当事者の権利の主張ですから、事故発生状況や相手の発言等から相手方の過失が考えられる場合にはそれらに対してきちんと異議・指摘・主張等するようにしましょう。

それでは、過失割合の問題を解決をするための重要なパーツをみていきましょう。

  1. 過失とは
    「一定の結果発生を予見し、回避することが可能であったにも関わらず、その結果発生を回避すべき措置を取らなかったということ」です。

    過失は規範的要件ですので、それを基礎づける具体的事実が、民事訴訟においても主張・立証しなければならない要件事実となります。
  2. 具体的要件事実と義務の具体的内容
    具体的な要件事実がどういうものなのかというと、
    1. 加害者に、結果を回避する義務が発生したこと
    2. 加害者が結果回避義務を怠ったこと

    の2つになります。

これらを自転車事故に当てはめて考えると、

  • 結果回避義務の発生は、
    「運転者が道路を走行する際には、衝突事故など起きないようにルールを守って安全に運転する注意義務等が発生している」ということです。
  • 「結果回避義務を怠る」というのは、
    「前方不注視やハンドルブレーキ操作の不適切等の何らかの過失によって事故を起こしてしまった」ということです。

つまり、交通事故に遭ってしまうと自転車運転者は「結果回避義務を怠っていた」のだとほぼ決め付けられてしまうということです。
たとえあなたがしっかりと交通ルール等の法令を遵守していて、実際は相手にぶつけられただけだったとしてもそうされてしまうのです。
そのため、過失割合の決定・過失相殺の判断をする際に利用される基準におけるほとんどの基本過失割合は、双方に過失がある状態から始まっているのです。

自転車事故で過失割合を判断する際には、事故類型によって判例タイムズなどの基準にあてはめ、まず基本過失割合を決定します。
つまり、事故類型が同じであれば、とりあえず一律に同じ基本過失割合が出てくることになります。

例えば、自転車同士の正面衝突事故が起きたとしましょう。
センターラインの無い道路で、対向進行してきた相手がセンターを越えてあなたにぶつかってきた場合、判例タイムズの基準にあてはめると基本過失割合は「あなた:相手=20:80」です。
相手がすれ違う直前に突然飛び出したために避けきれずに衝突したとしても、一律にあなたに20%の過失ありとされます。 これはまさに事故類型によって決め付けられた例であると言えるでしょう。

そして、これを覆すにはあなたが相手の過失を主張・立証しなければならないのです。
もしこの例で相手方が大怪我をした場合には、一方的にぶつけられただけのあなたの負担は増すばかりということになります。

だからこそ、しっかりとポイントを見極めなくてはならないのです。

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過失判断基準「合理的平均人」

加害者の結果回避義務の具体的内容は、特定された加害者本人の具体的な能力を基準として定立されるもの(いわゆる具体的過失)ではありません
もしそうだとすると、過失を判断する際に「人それぞれの能力を検討する」ということになってしまいます。

それをすると大変になってしまうので、判例も多数説も「合理的な平均人」を基準として過失を判断するとしています(いわゆる抽象的過失)。

これを簡単に言うと、「普通の人だったらすぐに分かるでしょ!」といったところでしょうか。

例えば、誰もが認める人並みはずれた自転車操作技術を身につけていたある者が片手運転をしていて、あなたと衝突事故を起こした場合を考えてみましょう。
そしてこう言うのです。

ある者:「俺の運転技術をもってすれば、片手運転でも普通の人よりはるかに安全に運転できる。危険な状態とは言えないんだから俺の片手運転は過失にはならない。だから過失相殺なんてされるいわれはない。」

もしこれが認められるのであれば、技術さえあれば何でもありになってしまうかもしれません。
だからこそ、一律に「合理的な平均人」を基準として過失を判断するようにしているのです。
つまり、このような場合でも

あなた:「普通の人なら片手運転ではハンドル・ブレーキ操作が適切にできませんよ。それに、あなたが両手で運転していたら衝突を回避できたかもしれないでしょう。だから過失がありますよ。」

と言える訳です。
「屁理屈を言うな」という訳ですね。

ただ、場合によっては「特殊な事情」も考慮される可能性がありますので、そこは注意が必要です。

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判例の過失割合判断の変更は可能

相手方保険会社や弁護士の決まり文句に、よく「こういう判例がありますから。」というのがあります。
確かに判例があると、それを覆すのは大変な作業となります。
しかし判例は、あくまでもその時に訴訟の対象となった個別の事故事例についての判断です。

そのため、あなたが事故発生状況を的確に把握・分析・整理をして、相手の故意・過失要素を細分化して検討し、証拠・実情・経験則等に基づいた的確な異議・指摘・主張・立証ができれば、判例の過失判断も変更することが可能となる場合があります。

たとえば、自転車同士の正面衝突事故において、
「加害者の傘差し運転は、本件衝突事故において重大な過失にあたる」
と主張しましたが、日弁連の交通事故法律相談の弁護士複数名、相手方保険会社顧問弁護士などから、
大勢の方たち:「それは判例からあり得ない。」
とさんざん否定されました。

なるほど、確かに判例タイムズ等では、傘差し運転等の片手運転を、せいぜい著しい過失程度と扱っているようです。
しかし、事故直後から最悪の場合を想定して事故発生状況等整理していたこともあって、横浜地裁での損害賠償請求訴訟において的確な指摘・主張を行い、相手の傘差し運転が重大な過失と認定された上で和解成立となりました。

このことは、たとえ判例や判例タイムズの基準等があっても、個別の事故発生状況によって過失の軽重が変わるという一つの具体例です。

相手方の過失要素の一つ一つに着目して過失の程度の差を明確にし、証拠・経験則等に基づく的確な主張・立証ができるように準備しておきましょう。

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自転車同士の事故の過失割合の基本的な算定手順

自転車同士の事故の場合、軽車両同士ということで基本的には四輪車対四輪車の過失割合の算定基準を準用します。
しかし、四輪車対四輪車の過失割合の算定基準を用いるのが明らかに間違いの場合もありますので注意が必要です。

例えば、十字路・T字路・丁字路などの交差点における自転車同士の出会い頭の事故の場合がそうです。

さて、交通事故・自転車事故の過失割合の算定・過失相殺率の認定基準としては、主に

  • 民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(別冊判例タイムズ)
  • 交通事故損害額算定基準(青い本)
  • 民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準(赤い本)

が使われています。

以下で走行中の追突事故を例に、簡単な過失割合の算定方法を説明します。

  1. 算定基準と同様の事故態様の基本過失割合をあてはめる
    走行中の追突事故の場合、「追突された側 対 追突した側 = 0 対 100」となります。
    つまり、基本的に追突した側が100%悪いと考える訳です。
  2. 当事者の過失要素による修正をする
    それでは、追突された側が走行中に不用意な急ブレーキを掛けるなどしていた場合にはどうなるのでしょうか?
    この場合には、不用意な急ブレーキが追突された側の過失要素となり、
    「追突された側 対 追突した側 = 30 対 70」と、大幅に追突された側の過失が加算修正されます。

このように、相手の過失要素によって過失割合が大きく変更されることになります。
過失修正要素には、速度違反や徐行義務違反などの「個別的修正要素」と、著しい過失や重過失といった「一般的修正要素」がありますが、難しく考えずに「道路交通法等法令に違反する行為」や「事故の危険・原因につながる故意・不注意」などと考えておきましょう。

過失要素による修正は、適正な過失割合算定をするためには欠かすことができません。
過失要素があるか否かは、事故発生現場・状況を調査・確認することでより明らかにすることができます。

クルマとは違う「自転車の性質からくる過失要素」や「すぐに証拠を押さえないと闇の中に消えていく過失要素」もありますので、相手方やその保険会社・弁護士から提示されている過失割合に納得できない方は、事故発生状況等を的確に把握するためにしっかりと見直しましょう。

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