正統の哲学 異端の思想
「人権」「平等」「民主」の禍毒
中川八洋

2011.05.07
 「革命」は悪であることは既に明らかになっているが、左翼など暴力革命を企図している勢力からは今なお目標として美化され続けているようである。本書は学会やマスコミで未だに圧倒的な支配力を振るう左翼、共産主義への挑戦であり、その勇気に敬意を表したい。また、数多の名著を駆使して解説してあり、非常に説得力がある。大変勉強になった。

 日本では山崎闇斎が「湯武革命論」として江戸時代に既に否定していたし、万世一系の皇統が我が国の国体であり、革命が頻発している支那朝鮮の国体は宜しくないことを国学(賀茂真淵『国意考』、本居宣長『玉櫛笥』)や水戸学、山鹿素行『中朝事実』などで示してきたから、本来日本人はわざわざバークに学ばずとも固有の保守主義を有しているのである。筆者は常に英米のアングロ・サクソンの保守主義、つまりバークとハミルトンに学べと主張するのであるが、先ずは日本人は日本の保守主義を学ぶべきであると思う。近代では福沢諭吉の『帝室論』、『尊王論』があるではないか。
 尚、筆者は社会主義(全体主義)の起源をルソーとデカルトに置いているが、プラトンの哲人政治『国家』に始まるのでは無いか。


 著者はフランス革命についての研究の核心は3つあるという。
1.フランス革命が「近代市民社会創造に貢献した」というのは神話に過ぎない事を示すこと
2.フランス革命こそ社会主義と全体主義という「悪の起源」である事を示すこと
3.「悪の起源」であるフランス革命を導いた近代哲学思想の系譜を明らかにすること

著者の解説
ルソー 平等主義 →個人の抑圧 →全体主義の温床\
デカルト 理性主義 →知性を過信            −ロシア革命
進歩主義、未来主義信仰(宗教的色彩)         /

著者による不健全な思想哲学の特徴 p.70
a. 人間の理性への過剰な信頼(「理性主義」「合理主義」信仰)
b. 人間の完全なものへの進歩、未来における完全な社会出現の確信(「未来主義」「進歩主義」信仰)
c. 人間の平等と大衆(人民)への過剰な価値付与(「平等主義」信仰、人民崇拝)

ユートピア思想と近代の社会主義(全体主義)の間には強い血縁の絆がある。 p.76

政治体制の教義(ドグマ)としては、ルソー主義と(このルソー主義から発展した)マルクス・レーニン主義との間には何らの差異は無く、同一である。 p.90
カンボジアのポル・ポト派とは、パリのソルボンヌ大学でルソーを熱烈に学んだ共産主義者たちで組織化された政党であった。(ポル・ポト派とはルソー教原理主義)

著者によるルソー哲学の要約
1.「現在の制度は悪」→「現在の人間は悪」 ⇒ 「現在の制度を破壊」→「人間を善へ」
2.破壊の後の「理想の政治体制」の「立法者」に全人民は完全服従しなければならない
3.「立法者」は家族を破壊し、孤児となった人民を「教育(人間改造)」するしかない
→1.は無政府主義、2.3.は全体主義のイデオロギー
   ↓
幸徳秋水は日本の「ルソー教徒第1号」 p.93
レーニン「敗戦革命論」、暴力革命

表3 近代「革命」の類型 p.159
文明的な発展(非共産主義、エリート主導)
 イギリス名誉革命、アメリカ独立戦争、明治維新
野蛮への退行(ルソー〜共産主義、人民主導)
 イギリス清教徒革命、フランス革命、ロシア革命

        ┌>全体主義体制 p.168
デモクラシー│     ↑
        └>衆愚政治

オルテガ「大衆の叛逆」による「大衆」と「貴族」の比較 p.177
    権利と義務     法と秩序    規範や礼節
大衆 権利のみ要求   無関心・破壊  無視・排除
貴族 自ら義務を課す  尊重・重視    尊重・従属


個人の“自由”に対する国家の権力を制限する“法(law)”とは何か p.215
バーク
「各個人の“自由”が各個人の父祖からの相続された個人的遺産であると考える賢明な叡智(常識)、それが“法”である」
ハイエク
「法と自由とは、ある社会の安定が長く幾世代も持続した事による歴史的産物であって「自生的秩序」である」

平等の弊害 p.299
1.平等が自由・法・道徳を侵害する。
 政治社会を永遠に分裂・抗争させ“法と秩序”の安定を阻み、破壊する。
2.全体主義に至る、その温床となる。
3.政治社会から高貴・真・善・美を消し去り、俗悪化する。
4.改革を恒常化し、永久革命し、伝統を破壊し祖先を含めて過去を忘却せしめる。
 その結果、自由・法・道徳が破壊される。








はじめに
第T部 総論−真正自由主義離脱の代償
 第一章 近代が生んだ「反・近代」−全体主義の源流フランス革命
  第一節 ロシア革命とは「第二フランス革命」
  第二節 「悪の起源」のイデオローグ−ルソー
  第三節 「理性主義」の集団妄想
  第四節 無益にして有害なカルト
 第二章 「進歩」という狂信
  第一節 マルクス主義−哲学思想か、「悪魔の宗教」か
  第二節 マルクス・レーニン主義の解剖
 第三章 真正自由主義(伝統主義、保守主義)
  第一節 近代政治思想の三大潮流
  第二節 「冷戦の勝利」は「バークの勝利」
  第三節 「自由の騎士」チャーチルとハイエク
  第四節 27名の賢者たち
第U部 各論−隷従の政治か、自由の政治か
 第四章 「平等教」の教祖ルソー−全体主義と大量殺戮の起源
  第一節 野獣(野生動物)−ルソーの理想人間
  第二節 私有財産否定の宗教団体−ルソーの理想国家
   「自由ゼロこそ、真の自由」/国家の宗教団体化と富・人民の私物化
  第三節 「不平等こそは人類破滅」−扇動家ルソーの魔性の囁き
 第五章 フランス革命−人類の「負の遺産」
  第一節 盲目の陶酔−「フランス革命研究」の信徒たち
  第二節 新・宗教国家の創造運動
  第三節 自国の「征服」と超中央集権化
  第四節 「理性教」から「社会主義教」へ
  第五節 立憲主義か、無法・独裁か−アメリカ建国とフランス革命
  補 節 我が国におけるフランス革命研究
 第六章 「大衆」−全体主義の母体
  第一節 「平等」という宗教−腐敗するデモクラシーの元凶
   平等は、衆愚への道か、隷従への道か/「大衆」と「貴族(エリート)」
   「大衆」との対抗/大衆の物欲と制度改革信仰−革命の土壌
  第二節 全体主義の「共犯者」−デモクラシーにおける「大衆」
   被支配側の三つの要因/「中間組織」ゼロは、自由ゼロ
   軽信と熱狂−大衆の野蛮(未開)性/デモクラシーの放棄は、全体主義の根絶
  第三節 「大衆」批判論−二つの系譜
 第七章 「人権」という狂信−全体主義への媚薬
  「共産党宣言」か、「人権宣言」か/フランス人権宣言−人間の奴隷化・動物化の原点
  普遍的権利か、民族固有の相続財産か/「人権」の放棄は、テロルの終焉
 第八章 迷信の「国民主権」、反・人民の「人民主権」
  第一節 文明の政治社会は、「国民主権」を廃棄する
  第二節 「人民主権」−狂信の宗教
   国家の宗教団体化/フランス宗教戦争(1562−98)
  第三節 「英国のルソー」ホッブズの悪弊
  第四節 マルクス主義「国民主権」論=ルソー主義「天皇主権」論
 第九章 「進歩」の宗教、「進化」の神話
  第一節 「進化」という世俗学説−ダーウィニズムの知的公害
   「進化」論−科学と非科学との間/今西錦司の「棲み分け」/スペンサー社会学の害毒
  第二節 最悪の「進歩」の宗教−社会主義教(マルクス・レーニン主義)
   「進歩教」の始祖・コンドルセ−人間は完成する?
   進歩史観−終末思想と救世主思想/「進歩」の宗教と人間供犠(テロル)
  第三節 ユートピアは「逆ユートピア」−未来主義の野蛮
   モアとカンパネラと『共産党宣言』/「逆ユートピア」文学の反撃/大衆はユートピアと訣別できるか
 第十章 平等主義−自由抑圧の擬似宗教
  第一節 自由と平等の二律背反
   ルソー/ヘーゲルの「自由の詭弁」/「社会的正義」−自由侵害の体制内左翼革命
  第二節 平等と、俗悪化する社会、腐敗する政治
   平等の不敗力/不平等と高貴な社会/享楽の平等、苦難の自由
 終章 伝統・権威と自由の原理−保守する精神
  「革新」−政治にとっての致死的害毒/伝統と権威−自由の砦/「古い偏見」−真正の政治哲理
  権威と自由と「中間組織」
文献リスト−「悪書」の過剰と「良書」の欠乏


関連書籍
大東亜戦争と「開戦責任」』 中川八洋
亡国の「東アジア共同体」』 中川八洋
山本五十六の大罪』 中川八洋
中国の核戦争計画』 中川八洋
日本核武装の選択』 中川八洋
正統の哲学 異端の思想』 中川八洋
保守主義の哲学』 中川八洋
福田和也と《魔の思想》』 中川八洋
正統の憲法 バークの哲学』 中川八洋
「名著」の解読学』 中川八洋
教育を救う保守の哲学』 中川八洋
フランス革命についての省察』 エドマンド・バーク
1984』 ジョージ・オーウェル
(批判的)
大東亜戦争肯定論』 林房雄




戻る