昭和史最大のスパイ・M
日本共産党を壊滅させた男
小林峻一 鈴木隆一
(帯より)昭和史の闇、謀略の極限を生きた男の全貌!立花隆氏も推奨!
資金・組織を一手に握る党の最高幹部として、戦前の「非常時共産党」を指揮し、大森銀行ギャング事件までやってのけたM。同時に特高警察と組んだスパイとして、瞠目すべき能力を発揮する。謀略の極限を生きた男の全貌を明らかにした出色のドキュメント。
2006.12.31
(カバーより)ギャング映画を地で行く銀行強盗などの資金獲得活動、コミンテルンと日本共産党との断絶、熱海事件とそれに続く一斉検挙−この時期の出来事には、Mが党幹部・スパイの両面から深く関わっている。戦前日本共産党史上最大の謎。スパイとしては世界史的にも希有な存在であり、成功例であろう。(プロローグより)


 本書における共産党というのは現在の日本共産党ではなくて、戦前の”非常時共産党”というものらしい。良く分からんが。Mの正体が明らかにされたのは別に本書が初めてではなくて、敗戦後くらいには既に共産党から糾弾の声も上がっていたらしい。が、除名にはなっていないのだという。良く分からんが。その後は1966年松本清張「スパイMの謀略」、1976年には立花隆「日本共産党の研究」、日本共産党「スパイMこと飯塚盈延とその末路」、1980年、小林峻一「スパイM」、そして2006年、本書という感じで結構息長く紹介され続けているらしい。

 Mが共産党に入ったのは、幼い頃に亡くなった父が、共産党に入り、正しいかとMが問うた時に、「絶対に正しい」と答えた事が大きいのだろう。その後は貧苦を味わい、進学せず労働者の道を歩むが、これも兄と喧嘩してまで進学しなかったのは当時の世情や父の言葉が有ったのだろう。しかし、彼は転向していくのである。
 Mは元々は活発な活動員だったようだが、クートベに留学し、モスクワでスターリン独裁体制が完成されていく過程を見、そして共産主義の本家本元であるはずのロシア共産党の中にユダヤ人差別などの差別を見、幻滅してしまったらしい。親族には共産主義のことを「こんな下らないものが世の中に有って、日本が良くなるわけがない」と語ったという。また、後悔しているかと問われて「いや、後悔していない。みんなの前に名乗り出て、共産党と真っ向から対立してやる。今度は一人でもう一回ぶっ潰してやる!」とも語っていたという。所謂転向というのだろうが、実態を知っていればこそ、その怒りは強いのだろう。
 第4章 背信と暴力 には”シンパ資金網の確立”、”文化団体組織化”の段があり、資金獲得の為に学生やら文化人やらインテリやらから所謂”カンパ(ロシア語のkampanijaからだという)”を得ていたらしい。これは今でも同様で、資金の流れを各種のイベントに見ることが出来る。

 Mを運用した毛利基という警察官も叩き上げながら異例の出世を果たした優れた警察官・特高だったようだ。Mは毛利基氏を慕っていたようである。互いに叩き上げの苦労を味わったという共感も有ったろうし、人間的な魅力を互いに感じてもいたのだろうか。

 Mを運用して共産主義者を一網打尽、というやり方を読んでいて思ったが、これはソ連のジェルジェンスキーの白ロシア、亡命者らの反ソ組織壊滅の手法に似てるなぁということだ。それは『ヒトラー暗殺計画とスパイ戦争』で紹介されている、諜報機関チェカーによるトラストという謀略工作だ。人間の思いつく事なんて世界共通ということか。



Mの本名:飯塚盈延(いいづかみつのぶ)
 偽名:峰原暁助、ヒョードロフ、松村昇、高瀬正敬

戦前の日本共産党史(十余年)
 第一次共産党、第二次共産党、武装共産党、非常時共産党、リンチ共産党

32年テーゼ
 本書によると、モスクワの政変によって前年に出された31年テーゼを大幅に変更したものだという。要するにスターリン独裁体制、一国共産主義、ソ連防衛の為の国際連絡機関にされ、日本に対しては「天皇制打倒」も指示し「労働者の祖国ソ連同盟を擁護せよ」ってことらしい。ダメだこりゃ。

クートベ
 モスクワに有ったという東洋勤労者共産大学。ここでMは共産主義に幻滅していき、転向するらしい。

小曾根勢四郎
 Mの前任者的存在か。毛利基特高係長により運用されていた。

特高・毛利基氏によるスパイの条件
1.武装共産党時代に中央委員クラスであったこと。そうであれば、、次の党の中央委員長あるいは中央委員になれることは間違いないだろう。
2.党内に人相や本名を知られていないこと。知られていればいるほど、それだけ疑われる危険が増えることになる。1.2.の条件は互いに矛盾し合うところが難しい。
3.検挙されたことを知るものが党内に皆無であること。これはほぼ絶対条件である。
4.クートベ帰りであること。必ずしも不可欠の条件ではないが、当局側はクートベ帰りは落としやすいと見ていたし、そういう実例も多かった。反対に党内では、クートベ帰りはただそれだけで無条件に尊敬されるような風潮があり、その為に重要な地位を占める可能性が大きかった。
5.労働者上がりであること。階級闘争を目指す党であるから、伝統的にインテリよりも労働者あがりのほうが尊重される傾向があった。
6.本人にその意志があること。
7.本人にそれだけの素質・能力があること。






プロローグ
第1章 最後の賭け − 熱海事件と非常時共産党の壊滅
第2章 モスクワへの道 − 生い立ちからクートベ留学まで
第3章 転回点 − 武装共産党時代
第4章 背信と謀略 − 非常時共産党の再建と躍進
第5章 闇の帝王 − 銀行ギャング事件
第6章 転生 − 熱海事件以降、死まで



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